ダメすぎる自分でも、誰かの愛おしい存在になれたら
書こう書こうと思いながら1年以上経過してしまった、Albiziaさんのジュエリーショップでnichinichiさんのポップアップが開かれたときの話。
ダメすぎる自分でも、誰かの愛おしい存在になれたら

鎌倉の海
書こう書こうと思いながら1年以上経過してしまった、Albiziaさんのジュエリーショップでnichinichiさんのポップアップが開かれたときの話。
nichinichiさんのジュエリーは基本1–2か月に1度オンラインでの販売なので、実際に見て選べる機会を逃すわけにはいかない!と思って勢いよく申し込んだのを今でも覚えてる。コロナで疎遠になった学生時代の友人を誘って、鎌倉を訪れた。
きらきら光るガラスのアクセサリーが所せましと並んでいて、ひたすらに迷った。付き添いで来たはずの友人ですら、気づけば指輪やピアスを見比べていた。
そんな素敵なアクセサリーに囲まれてとっても素敵な時間を過ごしたのは間違いない。間違いないのだけれど、ようやくアクセサリーを選び終えて、お会計をしようとしたときのやり取りが今でも忘れられないので今回はその話をさせてほしい。
お会計を……と取り出した財布を見て、nichinichiさんが「そのお財布、とっても素敵ですね」と声をかけてくれた。だいぶ昔に中国で買った、布製の長財布。いわゆるチャイナドレスのようなと言ったら想像しやすいだろうか、詩集の入った布を組み合わせた表面に、裏地は赤色。とにかくカードがたくさん入るので、ついついポイントカードを作りがちな身としては気に入っていた。
もちろん、褒められて悪い気はしない。緩んでしまった唇で「ありがとうございますぅ」とお礼を伝えた。だがしかし。
「この財布、裏地がちょっと滑りやすくって。ちゃんと留め具を留めないままバッグに入れると、バッグの中でカードが散乱してたりするんですよね」
そう。カードがたくさん入るのはいいのだが、財布がお札やレシートでパンパンになってボタンの留め具が留められなくなってしまうと、あっけなく滑り落ちる。そのせいで、仕事用のカバンからプライベートのバッグに財布を入れたときに、保険証が滑り落ちたことに気付かず、病院で面倒な思いをしたことがある。
財布としてはかなり致命的な欠陥があることを半ば自虐的に伝えたら、なんとnichinichiさんは
「えぇ?そうなんですね。んもぅ、愛おしいなぁ」
と私に返した。
そのときは、お客さんの持ち物を悪く言うわけにはいかなかったnichinichiさんが何気なく返してくれたのかなと思っていた。けれど、家に帰って、このやり取りを思い出すと、いろいろな思いがこみあげてしょうがなかった。
小さい頃から、物忘れが激しかった。金曜日に持って帰って週末に洗えと言われていた上履きを学校に忘れて、土曜日はほぼ毎週学校に取りに行っていた。誰もいない校庭を横切って、普段は使わない事務室の入り口で事務員さんに用件を伝えるときのみじめさは今でも忘れられない。連絡帳を忘れたこともあったし、座布団にしていた防災頭巾を夏休み前に持って帰るのを忘れて、新学期にダニ繁殖疑惑が起こったこともあった。確か紅白帽子もなくしている。
その後も、電車の中に荷物を忘れる、駅のトイレに荷物を忘れてパクられる、気づいたらなくなってる……なくしたものを現金換算したら今の月収くらいは行くんじゃなかろうか。そういえば家の鍵も何度かなくして、いろいろなところの忘れ物センターにお世話になった。
忘れ物・なくしものをするたびにものすごい罪悪感と絶望に襲われて。次は気を付けようと思っても忘れたころにまた起こり、絶望に襲われる。エンドレスループだ。
あとは「言われた相手がどう思うか考えて発言する」がものすごくできなくて「あのときめいこちゃんにああ言われたの本当は嫌だった」と言われることもちょこちょこあった。もちろん、あれは言っちゃダメだったなぁと思うこともあるが「本当のことなのに何が悪いの?」と思ってしまうこともなくはなかった。
いやもうあなたのダメエピソードはお腹いっぱいだよ……と思った方もいるかもしれないが、そんなの本人が一番そう思ってる。忘れ物して落ち込んで、探して取りに行くために時間を使って、対策を考えてもまたやらかして。「あのときああ言われて辛かった」って言ってる相手の表情や声のトーンが脳にこびりついて「あぁやっぱり自分ってダメだなぁ」って自己嫌悪に陥って。もういやだよこんなの。
メンタルクリニックに行って検査をしたら、ADHDの診断は出せないもののスコアは平均以上、ASDの傾向が強いと言われた。ADHDの症状を抑える薬を処方してもらって、だいぶやりやすくなった部分もなくはない。それでも薬を服用している事実はそんなに簡単に他人には言えない。
みんなは普通にできることが自分にはできないなんて最悪だ。同じやらかしを何度も繰り返す、人の気持ちを想像できない、こんな私って人間失格だ。仮に誰にも迷惑をかけてなかったとしても自分がつらい。こんな自分でいたくない。
でも、私の財布をnichinichiさんは「愛おしい」と表わしていた。 財布として致命的な欠陥を持っているのに、その欠陥の話を受けて「愛おしい」と言葉をかけていた。
あの財布の欠陥を「愛おしい」と言ってくれる人がいるなら、人としての欠陥を持っている私にも「愛おしい」と言葉をかけてもいいのだろうか。 そんなことを考えながら、ベッドの中で枕を涙で濡らした夜は、一度や二度じゃない。
正直、明確な診断が出ていないので、自らを「発達障害持ち」と名乗るのはいまだにためらってしまう。それでも初めて「親学」なるものを知ったときには堪えた。「生産性がどうの」とか「区が滅びる」とか言われた人たちが頭をよぎった。あのときは彼らの痛みをわかったつもりで怒っていたけど、いざ自分が当事者になると怒りの言葉もなかなか出てこない。マジョリティの無神経な言葉に傷つくってこういうことかと、想像以上の痛みに自分でも驚いた。
ここ数週間、特定の属性の人々を排除しようとしたり、なきものにしようとしたりする言葉がSNSで飛び交っている。いや、もっと前からその動きはあったが、参院選に向けてかなり増えた。根拠のないデマだとわかっているけど、それでも胸は痛いし、自分はここにいていいのだろうかと不安になる。
だけど、nichinichiさんが私の財布の欠陥を「愛おしい」と言ってくれたように、あなたが気に入っているあなた自身のことも、あなたが嫌いになってしまうあなた自身のことも、全部ひっくるめて好きになってくれる人が、きっと見つかる。悲しいことに人生は長いし、絶望に苛まれることもあると思うけど、ながい時間を生きていれば、きっとどこかで出会えるはず。
そう信じて、私は明日からも生存という名の抵抗を続けていく。
메타데이터
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- 2026-07-18 18:20:31