私にとってのアペリティーボ
私の卒業プロジェクトは、「自分を見つめ直す時間と深い対話の場をどうデザインすれば、人は行動に踏み出せるのか」という問いを軸に進めている。1年間のイタリア・ヴェネチア留学で出会った文化であるアペリティーボに関心を持ち、滞在中に100回以上その時間を経験した。今月は、日本において私が…
私にとってのアペリティーボ
私の卒業プロジェクトは、「自分を見つめ直す時間と深い対話の場をどうデザインすれば、人は行動に踏み出せるのか」という問いを軸に進めている。1年間のイタリア・ヴェネチア留学で出会った文化であるアペリティーボに関心を持ち、滞在中に100回以上その時間を経験した。今月は、日本において私が「アペリティーボ的」と感じた場が2回あった。これらのフィールドでの体験と、これまで考えてきたアペリティーボの定義、そして「アペリティーボではない」と感じた場の経験をもとに、改めて私自身のフィールドを明確にしたい。 9月19日、ヴェネチア留学中に出会ったYさんと神楽坂のイタリアンで再会した。このお店は、留学中によく通っていたエノテカ(イタリアのワイン専門料理店)の店主からおすすめされていた場所である。休日は昼の3時から、平日も夕方の5時からアペリティーボのために訪れることができ、予約制ではあるものの滞在時間に制限がない。多くの店が回転効率を重視して2時間制を設ける中で、時間を気にせず過ごせる点が印象的だった。さらに、店員さんはワインや料理に深い知識を持ち、お客さんの興味や会話の流れに応じて情報量を調整しながら、こだわりと自信をもって提供していた。Yさんとは3ヶ月ぶりの再会で、近況報告から留学時代の思い出、これから一緒にやってみたいことまで、途切れることなく会話が続いた。チーズ好きの彼女とともに、店員の説明を聞いたあと、それぞれのチーズの味だけでなく、触感、香りや余韻の長さを語り合いながら堪能する時間は、まるで共同で作品を仕上げるような対話の連続だった。議論ではなく、互いの感性を重ね合わせる共創的なやり取りに没頭した時間であった。

Yさんとのアペリティーボ@Il bollito+
9月22日には「薩摩会議」という3日間のイベントに参加した。2日目であるこの日は、鹿児島茶に関心を持つ人々が集まり、川上から川下まで生産現場を見学した後、「日本の抹茶ブランドを守るためには?」というテーマでパネルディスカッションが行われた。その後の懇親会では、茶農家や行政関係者、文化資本に関心を持つ方など多様な参加者が一堂に会し、食事を共にしながら自然発生的に意見を交わした。立場の異なる人々が互いの視点を持ち寄り、ノートに意見を書き込みながら真剣に考えを重ねていく姿が印象的だった。イベントの1日のプログラムは既に終わっていたのにも関わらず、美味しい芋焼酎を味わいながら、ただ楽しむだけではなく、「日本茶の未来」を語り合うその熱量に、私はアペリティーボ的な深い対話の気配を感じた。

抹茶の国際ルールに関する重要な内容を含むアペリティーボのため写真が撮れなかったので、その日に一番美味しかった芋焼酎の写真
一方で、「これはアペリティーボではない」と確信を持った場もあった。9月26日に母と訪れた大阪のホテルでのアフタヌーンティーである。私の好きなアーティストがデザインした特別なメニューで、開催を心待ちにしていた。見た目が華やかなスイーツを前に、母と幸せを共有する瞬間は確かに幸せであったが、そこでは共通のテーマをもとに深い対話が生まれることはなかった。時間制限の2時間を意識しながら、食べきれるかどうかを気にし、店員の目線も常に感じていたため、心の底から落ち着くことができなかった。

大好きなJosieちゃんのアフタヌーンティーの時の様子@Four Seasons Hotel Osaka
これら3つの経験を通して、私が考える「アペリティーボ的なフィールド」がより明確になった。これまでアペリティーボを「心地よい空間とゆるやかな関係性の中で、食と対話を媒介に相手との距離を縮め、深い自己開示や共鳴を自然に引き出す“心をひらくための時間”」と定義してきたが、そこに新たな視点を加えたい。落ち着いた気持ちで共通の話題を語り合い、記憶に残る体験を共有する場こそが、アペリティーボ的フィールドであると考える。このフィールドは、事前に意図して設定できるものではなく、実際に体験してはじめて立ち上がるものである。そして、私自身だけでなく、その場を共有した他者にも同様の心の動きが生まれているかを確かめたい。今後は、同じ場を共にした人と後日「その時間を振り返る」プロセスを取り入れ、アペリティーボが人にどのような内的変化をもたらすのかを探っていきたい。
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