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第2部:現場での実践

普通の教室を「155食を提供する魔法のキッチン」へ変える — — 5年間にわたるキッチン革命と資金調達の舞台裏

Ogamomoe · 2026-05-06 17:57 · 0 claps · 15.6 min read
#学校給食 #食育 #カナダ #設備
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第2部:現場での実践

普通の教室を「155食を提供する魔法のキッチン」へ変える — — 5年間にわたるキッチン革命と資金調達の舞台裏

*英語版はこちら

1. 予算ゼロからのスタート:専門スキルと設備投資による「ゴールドスタンダード」の構築

インフラ整備と設備投資 — ビジョンは一晩にしてならず、一歩ずつの積み重ねで築かれるー

「時間はかかります……しかし、ビジョンを持ち、それに向かってゆっくりと、それでいて着実に進む必要があります」 — ショーン・ティア

プロジェクトに即効性が求められがちな現代において、ショーン氏のアプローチは正反対のものでした。プログラム開始当初、「キッチン」は単に転用された教室に過ぎませんでした。設備は不十分で、収納棚は見栄えが悪いだけでなく、転倒の危険もありました。まさに「骨組みだけ」の状態からのスタートだったのです。

「5年かけて一歩ずつ作り上げる」という長期的なビジョンのもと、彼らは助成金を一つずつ確保し、徐々に空間をプロフェッショナルな環境へと変貌させていきました。

※キッチンの変遷(教室から業務用キッチンへ)を記録したすべての写真は、ショーン氏より提供されたものです。

  • カスタム・キッチンアイランド: 最初の助成金で導入。限られたスペースの中でスタッフの効率的な動線を確保しました。
  • 安全な収納ソリューション: 古くて危険な棚を撤去し、壁一面に機能的な鍵付きキャビネットを設置しました。
  • 業務用冷蔵設備: 地元の不動産業者から寄贈され、大量の食材の適切な管理が可能になりました。
  • 包括的な衛生アップグレード: プロ仕様のステンレス製シンクに加え、衛生管理に不可欠なフットペダル式の手洗い場を設置しました。
  • 調理能力の完成: 待ち望んでいた業務用オーブンとステンレス製のバックシュプラッシュ(壁面保護材)を設置。拡張されたIHコンロと換気システムにより、大規模な調理が可能になりました。

これらの設備の一部は学区によって購入・設置されました。ショーン氏が業務用オーブンを入手した際、学区もIHコンロの購入や換気システムの拡張を行うことで貢献しました。

運営の工夫とスキル

現在、第71学区の従業員である正子氏は、1日平均155食(ランチ約140食、朝食約15食)を調理し、日本の学校給食を「ゴールドスタンダード(黄金律)」として扱うモデルを、たった一人で実践しています。

安全で効率的な運営を実現するため、日本のモデルをベースに詳細な調整が行われ、円滑に食事が提供されています。

彼らは以下の点に注力しています:

  • 安全な配送: 幼稚園児や低学年の児童の安全を考慮し、ショーン氏自らが教室までランチを届けます。
  • 効率的なスケジューリング: 廊下の混雑を避けるため、低学年は11時30分、その他は11時45分という時差登校ならぬ「時差給食」を実施しています。

調理の主な担当は正子氏です。ショーン氏が時折手伝うこともありますが、運営は基本的に一人で行われています。

スタッフは正子氏一人ですが、寿司メニューの日など特定の機会には、日本の学校給食に精通した地元の方がオンコール体制で招集されます。このプログラムは、単なるオンコールではなく、本来であれば日常的に共に働きたいと思えるほどの、信頼の厚い方によって支えられています。

2. なぜ拡大しないのか:インフラの壁

温め直しのみを想定した学校施設

ショーン氏は、プログラムを拡大するためには資金だけでなく、構造的な課題に対処する必要があることを強調しています。

カナダの多くの学校には、包装化された食品を温めるためだけの売店形式の施設しかなく、大規模な調理を支援できるようにはなっていません。コモックスバレーでは、3つある高校のうち業務用キッチンを備えているのは1校のみで、他は単なる温め直し専用の設計となっています。

「学校にあるのは基本的に小さな売店のようなスペースです……大規模な調理ができるようには設計されていません」 — ショーン・ティア

この言葉が示す通り、ハードウェアとなる施設は再加熱と最小限の準備を前提に作られています。その結果、正子氏のような高度な技術を持つ人材であっても、その能力を十分に発揮することができません。

このようなプログラムを拡大するには、適切な調理インフラと学区からの全面的な支援が不可欠です。

3. 調理スキルだけでは不十分:運営スキルのギャップ

「パスタ10kg事件」が物語るもの

現在、プログラムは正子氏のような専門家の個々の専門知識に大きく依存しています。誰が担当しても一定の品質を維持するためには、システム化されたアプローチが必要です。

この課題を象徴する例が「パスタ10kg事件」です。

正子氏が休暇中に、(いつものオンコールスタッフとは別の)代理スタッフが担当した際、140人分のマカロニ・アンド・チーズを作るために、10kgのパスタ(約300人分に相当)を茹でてしまいました。

「信じられない量でした……誰も食べきれないほどのマカロニが入ったトレイが並んでいました。10キロといえば、約300人分です」 — ショーン・ティア

実際には3.5〜4kgあれば十分でした。その結果、大量の食べ物が無駄になってしまいました。

この出来事は、「どのくらいの人数に、どれだけの食材が必要か」を理解することがいかに重要であるかを浮き彫りにしています。適切な分量を判断するこの能力こそが、コスト削減と持続可能性の両方の鍵となります。

「すべてを使い切る」能力

限られた予算内で運営するには、すべての食材を最大限に活用する必要があります。

  • 戦略的な食材選定: そのまま提供でき、かつスープやパスタ、炒め物にも再利用できる鶏の骨付き肉などのアイテムを選択。
  • ゼロ・ウェイスト(ゴミゼロ)の実践: 野菜の皮や茎を翌日のスープに活用。

残り物をどう活かすかというこの考え方は、単なる調理技術ではなく「運営スキル」です。

正子氏は、カナダでは食材を完全に使い切るという概念が一般的ではなく、日本との食文化の違いを感じると指摘しています。

4. 「暗黙知」としての日本モデルとシステム化の必要性

ショーン氏と正子氏が実践しているのは、単なる調理ではなく、高度に洗練された運営システムです。

  • 標準化(1人あたりのグラム数設定)、廃棄ゼロを目指す
  • 衛生管理(食品の安全な再利用)
  • メニューの統合(週単位の計画と再利用戦略)

現在、これらの実践は正子氏個人の専門知識に強く依存しています。

長期的な持続可能性のためには、この「暗黙知」を言語化し、再現可能なシステムに変換しなければなりません。しかし、そこには大きな構造的障壁が存在します。

インフラと資金のギャップ

学区が高価なパッケージ食品に頼り続けていることは、非効率な選択やスキルへの投資を渋っていると受け取られがちです。しかし、新たな洞察により、より複雑な現実が明らかになりました。BC州政府は食事プログラム拡大のために「Feeding Futures」資金を提供していますが、現在の支援にはキッチンインフラを拡張するための予備費が含まれていません。

これが深刻な「能力のギャップ」を生んでいます:

  • 構造的な矛盾: 学区は食糧サービスの拡大を義務付けられていますが、アスペンパーク小学校のように、最近学習スペースを増設したもののキッチン施設を増設しなかった学校が多く、手作り調理をサポートするためのインフラが物理的に不足しています。
  • システム化のジレンマ: それらのスキルを実行するための物理的なスペースがなければ、日本の学校給食モデルのような「暗黙知」をシステム化することはできません。コンロ、調理台、収納がなければ、学区は高コストなパッケージ商品のサイクルに追い込まれてしまいます。

個人のスキルから正式なマネジメントへ

「パスタ10kg事件」に象徴されるように、現場レベルのマネジメントスキルの習得は急務です。廃棄を最小限に抑え、残り物を安全に再利用し、連動したメニューを作成するこれらのスキルこそが、コスト削減の鍵となります。

長期的な持続可能性を達成するためには、焦点を単なる「食事への資金提供」から「能力への投資」へと移さなければなりません。正子氏の専門知識を正式なシステムとして明文化することは不可欠ですが、それはキッチンインフラを教育的健康のための基本的要件として認める州の資金調達モデルと対になっていなければなりません。このインフラ不足を解消して初めて、効率的で健康的な食事生産の「暗黙知」を完全に具現化し、学区全体で共有することができるのです。

5. コミュニティ・スクールの役割

構造的な分断

現在、プログラムは「コミュニティ・スクール」として善意やチャリティに支えられていますが、これは恒久的な解決策ではありません。ショーンは、構造的な違いに起因する連帯感の欠如を指摘しています。

学区が直接運営するプログラムと、NPOやチャリティが運営するプログラムは別個のカテゴリーとして扱われており、同じ子供たちを支援しているにもかかわらず、孤立感を生んでいます。

資金の不確実性と公的責任

国家的な学校給食政策として拡大するためには、安定した公的資金と制度的支援が不可欠です。

本来、学校給食は公教育の一部であり、公平であるべきです。しかし現実には、助成金を確保する運営者の能力によって食事の質に差が出ています。ショーン氏は、このような状況はあってはならないと強く信じています。

助成金に頼ることは一時的な解決策に過ぎず、構造的な課題をもたらします:

  • 不確実性: 翌年の資金が保証されない
  • 不公平性: 助成金の申請書類を書くスキルによって食事の質が左右される

学校給食プログラムは、個人の努力やスキルに依存するのではなく、安定した公的支援のもとで提供されるべきです。ショーン氏は、現場レベルでの一時的な「その場しのぎ」の対策を超え、真に持続可能なシステムへと移行することの決定的な重要性を強調しています。

6. 価格設定と利用しやすさ

偏見を排除する使う人を選ばないデザイン

すべての利用者が心地よく利用できるように、このランチプログラムではオンラインプラットフォーム「MunchaLunch」を活用しています。以前は寄付を受け付けていましたが、2024/25年度の途中で「Pay What You Can(支払える分だけ支払う)」モデルに移行しました。

  • 価格設定: 幼稚園から2年生は2ドル、3年生から5年生は3ドル。家族への経済的負担を最小限に抑えることを目指しています。
  • 多様な利用方法: どの家庭も取り残されないよう、インターネットに不慣れな方のために紙の注文用紙も用意するなど、使いやすさを実践しています。

「家族に余計なプレッシャーを与えないよう、積極的な寄付の勧誘は控えています。手頃な価格設定が極めて現実的な課題であり、多くの世帯が苦労していることを認識しているからです。以前は全生徒一律4ドルでしたが、子供たちが実際に食べる量を観察した結果、現在の2ドルと3ドルの料金に値下げしました」 — ショーン・ティア

7. 結論

これまで見てきたように、単なる教室として始まった場所が、5年という歳月をかけて完全に機能するキッチンへと進化を遂げました。この変革は、段階的なインフラ投資、磨き上げられた現場のスキル、そして数え切れないほどの運営上の革新によって可能となりました。

同時に、その持続可能性はいまだに個人の献身や不安定な資金に大きく依存しています。どんなに成功した実践であっても、特定の人や場所に依存していては限界があります。

私たちは今、このモデルが実現可能であることを知っています。問いはこうです。

「これをすべての学校で再現可能にするためには、何が必要なのか?」

次回の記事予告

現場の実践が進化し続ける一方で、時代遅れの制度的システムが変化を推進する人々の障壁となっています。

シリーズ最終回となる次回は政策に焦点を当て、これらの「小さな成功」をすべての学校で実施可能な標準へと変える方法を探ります。

  • 「節約すると将来の予算が減らされる」という矛盾。効率化を阻む「逆インセンティブ」の葛藤
  • 「福祉」から「公共インフラ」へ

現場の声はどのように国家システムを作り直すことができるのか。持続可能な学校給食システムの未来図を探ります。

References & Cited Resources

In writing this article, we referenced personal accounts from Shawn and Masako Thir, as well as the following official documents, news articles, and communications from the operating organizations.

  1. Official Websites & News Articles

● Courtenay Elementary Community School Society (CECSS) Official Website Information page by the program’s operating body.

○ What People Think: Opinions about the Hot Lunch Program (Results of the program satisfaction survey)

○ Edible Cherry Blossoms (Food education initiative utilizing the school’s cherry blossoms)

● Comox Valley Schools (SD71) News Release Access to healthy food in schools is increasing thanks to provincial and federal funds (Report on program expansion via provincial and federal budgeting).

● Comox Valley Record (Local Newspaper) Breakfast club at Courtenay Elementary gives kids good start (An article from 2020 covering the breakfast program and the beginning of kitchen renovations).

Aspen Park Elementary

  1. Cited Videos

● Courtenay Elementary School Lunch Program 24 A documentary video in which Shawn and Masako discuss the program’s vision, the Japanese “Kyushoku” model, and their five-year journey.

● The Natto Taste Test A look at students trying fermented soybeans (Natto) as part of a food education challenge to explore new tastes and textures.

  1. Official Guidelines & Federal Resources

● Feeding Futures: School Food Programs (B.C. Government Official Site) The official portal for British Columbia’s initiative providing dedicated funding to school food programs.

● Getting Started: A Guide to Sourcing B.C. Food in K-12 School Food Programs (BC Government Official PDF) A guide to promoting local consumption in school food programs. Shawn Thir served as an editorial contributor.

● National School Food Policy (Government of Canada)

Official policy page detailing the vision and roadmap for the school food program across Canada.

● A National School Food Program to set kids up for success (Prime Minister of Canada Office)

Official press release regarding the 2024 budget announcement for the national program.

● National School Food Program Act (March 2026)

The legislative foundation providing permanent federal support for school food programs in Canada.

  1. Photos & Visual Materials

The photos showcasing the kitchen’s transformation (from a former classroom to a professional commercial kitchen) were all provided by Shawn Thir.

  1. Official Social Media

● Instagram: @courtenay_elementary_community

Follow this account for real-time updates on the nutritious, colorful menus prepared daily by Masako, as well as behind-the-scenes looks at the kitchen in action.


메타데이터
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2026-07-30 17:10:01